林 真理子
— RENEWAL DAYS
林 真理子
2026.09.10

半径5mの日常からアフリカ支援へ。デザイナー・林真理子さんの持続可能なものづくり

自然に囲まれた暮らしをしている“jonnlynx”のデザイナーでありディレクター・林真理子さん。人を和ませる柔らかい笑顔で「ものづくりが好きで、社会に出てから30年近く、ずっと何かを作っています」と語ります。現在は、服にとどまらず、アフリカの社会支援などの活動もする林さんに、 “álem”ディレクターの田口まさ美が、その発想とパワーの背景を伺いました。

ものづくりが好きで、陶芸教室でアルバイト

田口まさ美(以下・田口):出会いは20年以上前、私はファッション誌の編集者で、真理子はセレクトショップのプレスだったよね。

林真理子(以下・林):あの頃、私は社長から突然「プレス業務も兼任してほしい」と言われ、デザイナーをしながらやっていて。社交性があるところで、目をつけられたのかもね(笑)

プレスの仕事は、とても大変なことはわかっていたので、「嫌です」と断ったのに。でもやったから今があるのかも。スタイリストさんやエディター、ライターの方と知り合い、多くを学んだので。

田口:あの頃の真理子は、ブランドの顔で、当時から今と同じくセンスの塊だったよね。だから自分のブランドを立ち上げたと知り、すごく自然な流れだと思った。

林:作ることがとにかく好きなんだよね。そのことに気づいたのは学生時代。私が卒業した美術系の短大は2年間で彫刻、陶芸、絵画、デザインなどを、とにかく広く浅く学ぶ。当然、課題も多く、さまざまなものを作る中で「生活の半径5m以内にあり、人に寄り添う立体のものが好き」と気づいたの。

インテリアやプロダクトデザインにも興味があったけど、なかでもファッションに心惹かれた。服は、最初は平面なのに、人が着て立体になる変化に心をつかまれたというか。

卒業後、靴の会社や陶芸教室のアシスタントも経験。陶芸はお給料が安かったけれど、楽しくて。でも、23歳のときに、このままでは生活できなくなると気づいて、改めてファッションの世界に行こうと決心。知り合いの紹介でセレクトショップに面接に行きました。

実務でのデザインの経験はないし、できなかったのに、学生時代の作品ファイルなどを持って行き、社長から「本当にデザインできるの? デザイナーになりたいの?」と聞かれ、反射的に「できます! デザイナーになりたいです!」と答えていた(笑)。

香りがあるとリラックスするから」とインタビュー前に自作のお香をつけてくれた林さん。白檀、パチュリ、フランキンセンスなどをブレンドしている。パッケージイラストを描いたのは、当時7歳の息子。
香りがあるとリラックスするから」とインタビュー前に自作のお香をつけてくれた林さん。白檀、パチュリ、フランキンセンスなどをブレンドしている。パッケージイラストを描いたのは、当時7歳の息子。

田口:道を開くのは、はったりと度胸。そして強い思い。

林:本当にそう! チャンスが見えたら、その道を進むのみ。採用してくれた社長も器が大きいなと思います。最初はバイヤーのアシスタントとして働き始め、オリジナルアイテムを作っている人の手伝いをしながら、「こうやって商品はできるのか」と流れを学びました。

そのうちに、自分でも作ってみたくなって。当時、リメイクアイテムが流行っていたので、古着のデニムを解体して表がデニム、裏がレザーというベルトを、私のデザインで初めて作らせてもらったのです。

それが40本くらい売れたのかな。そのほかいろいろ作っているうちに、どんどん任されるようになり、毎日楽しかった。そんなときに、プレスの前任者が辞め、社長から「お前がやれ」と。

田口:それで私たちは出会うことができた。

ブランドは「低空飛行で長く続ける」

田口:2008年、32歳のときに会社を辞めて独立してるよね。それからずっと続けてるって、すごい!

林:プレスの仕事は人脈も広がるし、すごく楽しかったんだけど、やはり「私はものづくりが好きだ」と心の底から思うようになったんだよね。

それで、価値観や、同じ世界観を共有する人に向けて、服が作れたら幸せだろうと思い、同僚と“jonn lynx”を立ち上げたのです。

田口:不安はなかったの?

林:それが「やれるでしょ!」と楽観的に思っちゃったんだよね(笑)。私たちの服はある一定の層には、必ず売れるという確信があり、当時はまだ新しかったネット販売から始めたのもよかったのかも。

もちろん、不安視する人や反対意見はあったんだけど、自分としては当時から”NET-A-PORTER”などの海外通販で買うことが多かったし、今後、服の販売はネットが中心になるという読みもあって。

結果、“jonnlynx”は立ち上げから堅調に売れ、ファッションが好きな人に支持されていることがとてもよくわかった。立ち上げから私たちが経営方針として大切にしているのは、「低空飛行で長く続ける」こと。無理な事業拡大は行わず、現状維持を優先する。現在もオンラインと実店舗で販売しているのですが、卸先ともお互いにコミュニケーションができ、信頼関係を維持しています。流行り廃りに左右されない、とてもいい循環ができていると思います。

田口:共同経営者の方と二人の関係も素敵だよね。

林:そうなの。彼女はある有名ブランドを立ち上げたメンバーで、パリのエスモード(ファッション専門教育機関)でファッションを本格的に学んでいて、服作りのほか、実務にも詳しい。私にないものをたくさん持っていて、すごく良い関係。互いの得意分野を生かして、18年間、一度もケンカせず、リスペクトし合いながら続けられていることに改めて感謝してます!

豊かな緑が広がる自宅バルコニーで。 “álem”ディレクターの田口まさ美とは、20年以上の友人。
豊かな緑が広がる自宅バルコニーで。 “álem”ディレクターの田口まさ美とは、20年以上の友人。

アフリカの社会支援プロジェクトに参加

田口:自分のブランドでクリエイティブな仕事をしているけれど、それは結局全て「自分らしさ」みたいなものから生まれるもの。自分に立ち返るというか、自分の心を潤す時間も大事だよね。私も、つい目先の業務に追われがちなんだけど、環境を整え経験を積むことも、同時にすごく大切にしなきゃなと感じていて。真理子は今、どんなことに興味を持っている?

林:それが、3年前からアフリカに行ってるの! UNIDO(国連工業開発機関)やJICA(国際協力機構)の仕事で、現地の社会支援のプロジェクトに声をかけていただきました。アフリカは全体的に貧困や医療・教育の遅れ、気候変動の影響、紛争など多面的な課題を抱えているけれど、資源も多く自然も豊かで、カルチャーが多様で奥深いという魅力にあふれている。

最初に行ったのは、エチオピアのラムレザーの製造現場。高品質なのに安い値段で輸出され、現地に利益が還元されない状態が続いていたの。これを問題視して立ち上がったのが、日本発の“andu amet(アンドゥ アメット)”という革小物ブランド。私はこのリブランディングをお手伝いしたの。

翌年は、紛争でトラウマを抱えた元兵士の社会復帰や、女性の自立をものづくりで支えるプロジェクトに加わったんだよね。

今は、ケニア北部のトゥルカナ地域にいる難民の職業創出プロジェクトに関わっているんだ。現地の女性と会っていて感じたのは、装うことの大切さ。すごく暑いのに、重い腕輪や首輪をつけ、美しくいることを大切にしている。ファッションは、人のアイデンティティにとって、すごく大切なものなのだと改めて感じたの。

そこでは、ビーズ製品やアクセサリー、現地の蜂蜜を使った製品の企画、この地域でしか取れない植物を用いたオイル製品の開発などに携わっている。

インフラや技術不足といった課題は山積みだけど、現地の人々が誇りを持ち、それぞれの国に帰れるように、ものづくりを通じた長期的な支援ができたらなと思って。

田口:活動が世界に広がっている!

林さんが赴く地域は、アフリカ北部が多い。「例えばケニアのカクマ難民キャンプは10年近く設営されており、世界中から支援物資が届き、満たされている。だからこそ経済的自立が難しいという問題を抱えているのです」(林真理子さん)
林さんが赴く地域は、アフリカ北部が多い。「例えばケニアのカクマ難民キャンプは10年近く設営されており、世界中から支援物資が届き、満たされている。だからこそ経済的自立が難しいという問題を抱えているのです」(林真理子さん)

林:これまで蓄積した自分のスキルで、少しでもお役に立てたら幸せだな、と。

田口:人生を歩む上で、発想や決断のインスピレーションはどこから得ている?

林:私はやっぱり自然の中にいるときかな。好きなサーフィンとかしていると、精神的な浄化や解放があったり。、緑の中にいるだけで、インスピレーションが湧いてくる。自然の中で集中状態に入ることは、生き物としての本能的な“何か”が目覚め、それがクリエイションにつながっているのだと思っている。

田口:たくさんの活動をしているのに、無理している感じが全くない。昔から真理子は真理子って感じ。

林:自分らしくあるために、できるだけ自分を客観視しようとはしているかな。自分のキャパシティ以上のことはせず、目の前のことに丁寧に向き合う。大切なのは今に感謝して持続すること。その先に世界が開いていくと感じます。

そんな林さんが大切にしている言葉は?

足るを知る

「若い頃は、他人と比べたり、もっともっと、と思ってしまったことも。それによって失敗したこともあり。また後悔を、結構引きずるタイプなので(笑)。この言葉を戒めとして、自分のペースを保つ指針にしています。それが自分に合う幸せな生き方だなと感じています」(林真理子さん)

— HER ESSENTIALS

林さんの暮らしに欠かせないアイテム

自然循環や生物にまつわる本
自然循環や生物にまつわる本

「本はいつも旅に持って行くけれど、最近はこの2冊を持っていきました。まず『旅をする木』(星野道夫著)は、著者が19歳の時に体験したアラスカの圧倒的な大自然と、そこで生きる人々の価値観や生活を綴った33編のエッセイ。人と自然のつながりがわかり、気づきを得ています。次に、『癒す心、治る力』(アンドルー・ワイル 著、 上野 圭一 訳)は、医学的知見に基づいた、人の治癒力の本質を突いた本。心身の状態を整え、いい人生を送るためのヒントにあふれています」(林真理子さん)

旅先で出会った小物たち
旅先で出会った小物たち

「自宅に置いてあるのは、植物の種、魔除け、アート……旅先などで『これだ』と直感したもの。いちばん左はアフリカのセーシェル島の種、黒い水差しのようなものはエチオピアのコーヒーポット、中央の丸いものはケニアの腕輪です。後ろの赤い像は、お土産でいただいたスペインのマヨルカ島の魔除け。その後ろはエチオピアの枕です。好きなものを集めていると、ジャンルはバラバラなのに調和するのも面白いですよね」(林真理子さん)

自然を近くに感じる植物
自然を近くに感じる植物

林さんの自宅の窓の外には豊かな緑、室内には観葉植物、ベランダには睡蓮が。「これは、鹿児島の叔母から譲ってもらった薩摩焼の火鉢です。花が咲いたり、新芽が出たり、季節ごとの変化が心を満たしてくれます」(林真理子さん)

撮影/古谷利幸 エディター/前川亜紀 モデレーター/田口まさ美
林 真理子
林 真理子

セレクトショップのプレス、デザイナーを経て2008年に独立。現在は自身が立ち上げたファッションブランド“jonnlynx”のデザイナー・ディレクター「一日を通して心地よく着られる服」をコンセプトに、素材感と着心地がいいものづくりを続けている。国連のアフリカの産業支援ほか、多岐にわたる活動を行う。 Instagram:@mariko__hayashi

a little light for every moment

人生のすべての瞬間を美しく、小さな光でそっと照らすように。